その時、脳は痛みを創った【前編】〜あなたのそのつらい痛み、本当は「脳が再生している記憶」かもしれません〜
こんにちは!
神奈川県横浜市保土ヶ谷区、天王町駅の洪福寺松原商店街近くでブレインキュア治療院の院長をしています、石関祐輔です!
突然ですが、あなたはこんな経験ありませんか?
ある日、朝起きてちょっと顔を洗おうとかがんだ瞬間、腰に「ピキッ」という衝撃が走り、その場から動けなくなる…。
あるいは、寝て起きたら首が痛くて回らない…。
重いものを持ち上げたわけでも、激しい運動をしたわけでもない。
それなのに、まるで雷に打たれたかのような激痛が、ある日突然やってくる。
病院や整形外科に駆け込んでレントゲンを撮っても、「特に異常はないですね」「年齢のせいでしょう」「とりあえず痛み止め出しておきましょうか」と言われ、湿布と薬を渡されて帰される。
それでも痛みは消えない…。
もしあなたが今こういう状態にあるなら、あるいは過去にそんな経験をしたことがあったら、ぜひこの記事を最後まで読んでみてください。
というのも、私はある時こんな現実を目の当たりにしたんです。
家族に身体を支えられながら運ばれベッドに寝るのもやっとだったぎっくり腰の患者さんが、わずか数分のソフトな施術を受けただけで、寝返りも起き上がるのもスムーズになり自分の足で歩いて帰っていく…。
冗談みたいですが、本当の話です。
強く揉んだわけでも、ボキボキと骨を鳴らしたわけでもない。
それこそ羽が触れたような優しいタッチだけで、あの激痛がスッと引いていく。
これっておかしいと思いませんか?
もしぎっくり腰が筋肉や背骨、骨盤など「腰そのものに原因がある痛み」なら、そっと触れただけで治るはずがないですよね。
そもそも腰を痛めるようなことは何もしていない…。
ここに、痛みの大きな秘密が隠されています。
痛みは大きく3つに分けられる
まず、当院では痛みを3つに分けて考えています。
①ハードペイン(組織の障害を知らせるSOSサインとしての役割を持った痛み)
②ソフトペイン(脳の情報処理が引き金となって起こる痛み)
③ハイブリッドペイン(両方が混ざった痛み)
順番にいきましょう。
1.ハードペインは「壊れた場所のお知らせ通知」
ハードペインは、身体のどこかが傷んでしまったことを脳に通知するためのSOSサインです。
骨折、捻挫、切り傷、打撲、火傷といった「明らかなケガ」や炎症による痛みなどがこれにあたります。
たとえば階段で足を踏み外して足首をひねったとき、捻った方向に動かすとズキン!と痛みますよね。
でも安静にしてじっとしていると、そこまで痛くない。
これは「いま動かしたら余計に悪くなるよ!」と脳が教えてくれているわけです。
だから動かさずに休んでいれば、修復が終わると同時に痛みは消えていきます。
つまりハードペインは、「どこで損傷が起きているのか」「どのくらいの損傷なのか」を脳に伝えることが役目。
その仕事が完了次第、自然と治まり素直に消えていく痛みがハードペインであり、これが本来の痛みの姿です。
2.ソフトペインは「脳が再生している痛みの記憶」
ソフトペインは、脳の情報処理が引き金となって起こる痛み(痛み記憶を作っている神経回路の過剰な活動)です。
つまり、身体の組織はまったく壊れていないのに、脳の中だけで作り出されている痛みになります。
「えっ、組織が壊れていないのに痛いって、それって気のせいじゃないの?」
そう思った方、ちょっと待ってください。気のせいではありません。その痛みは本物です。
こういったことを言うと「気のせい」とか「気持ちの問題」と片付けられてしまうから、ソフトペインで苦しんでいる人がいつまで経っても救われないし、医学の教科書が変わらないのです。
慢性腰痛や肩こり、関節痛、しびれ、それから線維筋痛症やCRPS(RSD)といった難治性の痛み、さらにはぎっくり腰、寝違え、四十肩の激痛発作…。
多くの慢性痛と一部の急性痛が、実はこのソフトペインだというのが私の見方です。
ソフトペインという言葉の響きとは裏腹に、脳が本気で痛み回路のスイッチを入れると、本当に信じ難いほどの激痛を生み出します。
3.ハイブリッドペインは「混ざった痛み」
ハイブリッドペインは、ソフトペインとハードペインの両方が混じった痛みです。
たとえば軽い捻挫のはずなのに、思いのほか腫れがひどくなってしまったり痛みが強い…なんてことはありませんか?
これはハードペインにソフトペインが合わさり、痛みや腫れといった症状が強くなってしまったものになります。
またはもうとっくに治っていても良いはずなのに、なぜか腫れも痛みも引かない。
「もう治ってるはずです。まだ痛いっておかしいですよ」とお医者さんに突き放されてしまった経験がある方もいるんじゃないでしょうか。
これはハードペインから始まった痛みがいつの間にかソフトペインに切り替わってしまい、「組織の修復は終わりケガ自体は治っているが、症状は残ってしまっている」ケースになります。
実は「純粋なハードペインだけ」というケースはほとんどなくて、ケガの多くはハイブリッドペインなのです。


ではこのソフトペイン、いったい何者なのか? ここから本題に入っていきます。
脳は感覚統御を司るオーケストラの指揮者
人間が体験する痛みの強さを数字に表して順位付けした論文があります。
それによると、1番強い痛みは初産婦の分娩時痛、2番目は経産婦の分娩時痛、3番目は腰痛という結果でした。
出産時の痛みを電流に置き換えて男性に流すという実験を行ったところ、その半分くらいの強さでも耐えられなかった…というのも頷けます。
「今まさに新たな命を生み出そうと凄絶たる激痛に耐えている妊婦が、分娩の真っ最中にぎっくり腰になったら、その女性はどちらの痛みを感じると思いますか?」
出産とぎっくり腰の両方を体験したご婦人にこうした質問をぶつけると、その9割以上の方が「ぎっくり腰の痛みは感じないと思う」と答えます。
脳は1秒間に少なくとも1,000万ビットの情報を処理すると言われており、膨大な五感からの情報を絶えず処理しているため、そのすべてを意識に上げてしまうと生活に大きな支障を来たします。
衣服を着た瞬間は当然生地の肌ざわりを感じますが、しばらくすると感じなくなりますよね?
これは「感覚器の順応」によって説明される現象ですが、脳はあらゆる五感からの情報を処理・統合し、意識に上げるか上げないかを取捨選択しコントロールしています。
こうしたシステムを『感覚統御』と呼んでいます。
また視覚優位と言われる霊長類においては、聴覚より視覚が優先される傾向があります。
たとえばスクリーン上で「ガ」と発音させている人の顔を見せながら、実際には「バ」という音を聞かせると、被験者の脳は視覚を優先させるため、口を閉じない発音「ダ」や「ガ」に聞こえてしまいます(マガ-ク効果)。
さらに一つ、面白い実験を紹介します。
被験者に「上下が逆さまに見えるメガネ(倒立メガネ)」をかけたまま生活してもらう、という実験です。
最初は当然、世界がひっくり返って見えるので何もできません。
ところが歩いたり物に触ったりしながら数日過ごすと、なんと脳が勝手に映像を補正して、メガネをかけたままなのに普通の景色に見えるようになるんです。
さらに別の実験では、被験者に「左右が反対に見えるメガネ(左右逆転メガネ)」をかけて生活してもらったところ、初めはドアを開けることもままならなかったものが次第にスムーズにできるようになり、その4日後にfMRIによって脳の活動領域を調べたところ、本来右視野に活動が現れる場面で左視野が活動していることが分かりました。
つまりメガネに合わせて、脳の視野が逆転したことになります。
こうした五感のあいだにある優先度も、広い意味での『感覚統御』だと言えます。
脳は、感覚統御を司るオーケストラの指揮者のような仕事もしているのです。

ぎっくり腰の臨床が教えてくれた「小脳」のすごさ
冒頭でもお話ししましたが、なぜそっと触れるだけのソフトな施術で、ぎっくり腰の激痛がスッと引いてしまうのでしょうか?
ぎっくり腰の原因が、もし現代医学が説明するようなハード(身体)の問題だとしたら、タッチングのようなソフトな刺激で即効的に改善するはずがありません。
ちょっと信じられない話かもしれませんが、「劇的な回復(家族に支えられながら立つのがやっとだった人が、普通に歩いて帰る)」は実際に起こっている事実です。
私はこの謎を何年もかけて考え続けました。
そこで辿り着いたのが「ソフトペイン」という考え方…つまり、痛みは「脳の問題である」ということです。
そして注目したのが、後頭部の下のあたりにある「小脳」と呼ばれる脳の部位です。
「小脳って、運動を司る場所でしょ?」と思った方も多いかもしれません。
実は最近の研究で小脳は運動だけじゃなく感情、認識、感覚、記憶、さらには時間の感じ方まで、ありとあらゆる高度な働きに深く関わっていることが分かってきました。
小脳には大脳の約7倍もの神経細胞がぎっしり詰まっており、これらが何をしているかというと、「無意識のうちに身体を動かしたり感じたりするためのプログラム」を保管しています。
たとえば自転車。最初は何度も転びますよね?
しかし一度乗れるようになれば、何年もブランクがあっても忘れず乗ることができます。
これは「自転車に乗るプログラム」が小脳に保存されているからです。
ちなみに私自身、実家を出てから10年以上自転車に乗っていなかったのですが、先日久しぶりにシェアサイクルで妻と出かけたとき無事に乗ることができました(笑)。
このように歩く、走る、立つ、座る、ジャンプする、しゃべる、字を書く、お箸を使う、パソコンのブラインドタッチ、姿勢を保つ…私たちが普段意識せずにやっている基本動作のほとんどは、この小脳に保存されたプログラムに頼って無意識に実行されています。
つまりここまでの話をまとめると、脳の活動は内的(五感から常に入ってくる膨大な量の感覚情報の統御)、外的(基本動作など運動の制御)どちらもその多くは意識に昇らない情報であり、意識的なものよりも無意識下で行っている活動のほうがはるかに多いということになります。
それを証明するように、脳が消費するエネルギーの内わずか5%が意識的な活動に、残り95%が無意識下の活動および細胞の維持修復と言われています。

私たちはたくさんの「痛みの記憶」を脳に貯めている
あなたは小さい頃、どんなケガをしましたか?
転んで膝をすりむいた。鉄棒から落ちた。自転車で転んだ。ドアに指を挟んだ。階段を踏み外した。包丁で指を切った。歯医者で歯を削られた。注射を打たれた。骨折した。捻挫した。やけどした…。
大なり小なり、誰だって数えきれないほどの「痛い体験」を積み重ねて生きてきています。
そのなかで、大事なのはここです。
「痛い体験」は記憶として、ぜんぶ脳の中に残っているんです。
たとえば私の患者さんで、こんな方がいました。
他の病院で「椎間板ヘルニアです」と診断された、腰からお尻にかけて激しい痛みに苦しんでいる中年の男性です。
私はその方の身体を診て、「これはヘルニアじゃないな」と感じていました。
そこで時間をかけてじっくり問診したところ、その方がこうつぶやいたんです。
「先生、今思い出しました。子どものころ足を踏み外して階段からずり落ちたことがあるんですが…この痛み、あの時に思い切り打ち付けて擦った腰とお尻の痛みにそっくりなんです」
こどもの頃に階段から落ちて打ち付けた時の腰とお尻の痛みの記憶が、何十年も経って大人になってから、脳の中で「再生」されていたんです。
信じがたい話に聞こえるかもしれません。
しかし、こういった事例は私の臨床では決して珍しくありません。
一般に現代医学のなかでよく説明される「神経痛」とは違い、「侵害受容ニューロンによる脳内マーキング」という考え方があります。
簡単に言えば、けがの大小に関わらず組織が傷ついた痕跡(記憶)が脳内に残るという考え方です。
たとえばファントムペイン(幻肢痛)。
これは感染や外傷などによって手足を失った人が、本来あるはずのない手足に感じる痛みのことを言いますが、神経痛ではとても説明できる現象ではありません。
また脊髄損傷により首から下が完全に麻痺しているにも関わらず腰の痛みを訴える方がいますが、これも本来であれば麻痺している部分に痛みを感じるはずがありません。
これらは神経痛(末梢神経の問題)では説明できないため、中枢の問題であると考えられます。
つまり、脳の問題です。

「信じる者は救われる」という科学
ここでハーバード大学の教授Henry Knowles Beecherによる有名な報告をご紹介します。
第2次世界大戦中のイタリア前線において、重症を負ったアメリカ兵士のうちモルヒネを要求したのはわずか32%、さほど重症とは言えない外傷例では83%
これが意味するところはなんでしょうか?
前線復帰のあり得ない重症例では、「本国に戻れる」という安心感と幸福感がモルヒネと同等かそれ以上の鎮痛効果をもたらすわけです。
つまり脳の問題です。
さらに、あなたは「プラシーボ効果」というものをご存じでしょうか?
これは効果があるという「思い込み」によって痛みなど症状が改善する現象のことを言いますが、実はあらゆる医療行為のなかに隠れています。
患者さんがある治療を受けるとき、治療自体あるいは治療者に対して抱いている無意識に近いレベルでの安心感や信頼感の深さが、その結果を大きく左右します。
プラシーボ効果が発現するには「安心感」という要素が必ず必要であり、さらに「信じる力(意志)の強さ」が深く関わっているのです。
つまり脳の問題です。
ちなみに明石家さんまは風邪をひいたとき必ずメロンを食べ、一発で治るそうです。
医学的には何も根拠がありませんが、これぞまさしくプラシーボ効果によるものです。
※「若いときにメロンを食べれば風邪が治ると自分を洗脳した」明石家さんま談

「脳内アプリ」が創る痛み
では、ここである実験をご紹介します。
マウスを小部屋に入れ、ある特定の音を聞かせた直後に電気ショックの痛みを与え続けます。
すると、やがてそのマウスは小部屋に入れただけで、あるいはその音を聞かせただけで頻脈、血圧上昇、すくみ行動をおこすようになります。
これを条件恐怖反応と言います。
では、この実験を人間に当てはめてみるとどうでしょうか?
被験者が頻脈や血圧上昇、すくみ行動を起こし、さらに痛みを感じたとしたら…それは心因性疼痛に分類されます。
これは「条件疼痛反応」と呼ばれており、まさしくこの現象は「脳に保存された痛みの記憶が脳の中で再生されている」と考えられます。
また、お母さんが子供の腕の骨折を治す現場に立ち会ったとき、整復(骨を引っ張って戻す操作)でボキッという音を聞いた瞬間、自分の腕に痛みを感じたという話があります。
お母さんの腕には何も起きていない。でも痛い。
これも脳が創った痛みです。
このように、脳は過去の体験と記憶を材料にして、「ないはずの感覚」をリアルに再現できるのです。

脳は「足りないもの」を勝手に創って見せる天才
本来知覚するはずのないものを脳が創り出してしまう現象は、錯覚の研究領域では「補完」と呼ばれています。
これは人間の感覚統御において、実際にはない対象(欠落している箇所)を過去の体験や記憶を基に無意識的に「創ってしまう」現象です。
つまり脳は「世界はこうあるはず」「身体はこう動くはず」という予測のもとに動いていて、足りない情報があれば過去の記憶から引っ張ってきて、勝手に創って見せてくれるのです。
補完の代表例としては、錯視における「色の残効」や錯聴における「連続聴効果」があります。
また補完の代表例といえば、心霊写真。
あの輪郭やシミにしか過ぎないものが、人間の顔に見えてしまう現象。
あれも脳が「これは顔のはずだ」と勝手に補完しているわけです。
まとめ
だいぶ長くお付き合いいただきまして、ありがとうございます。
最後にもう一度、ポイントを整理しておきましょう。
〇痛みは「ハードペイン」「ソフトペイン」「ハイブリッドペイン」の3種類に分けられる。
〇多くの慢性痛および難治性疼痛と一部の急性痛は、実はソフトペインである。
〇小脳は「感覚の統御」および「認識や感情の制御」に関与している。
〇人間の基本動作(運動プログラム)は主に小脳に保存され、多くの場合で無意識に実行できる。
〇幼少期からの痛みの体験は、痛みの記憶として脳内に残る。
〇脳には足りない情報を補い自ら創り出す「補完」という能力がある。
今回は多くの痛みの原因である「ソフトペイン」について理解していただくために、必要な前提知識についてご説明させていただきました。
だいぶ長く、そして難しくなってしまいましたが、これでもかなり噛み砕いて分かりやすくお話させていただいたつもりです(笑)。
次回はいよいよ今回の前提知識をもとに、なぜ痛みが創られるのか?なぜ脳は痛みを作る必要があるのか?
脳が創る痛み「ソフトペイン」についてお話させていただきます。
あなたの長年の痛みに、新しい光が差すきっかけになれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました(^^)